COVID-19で血栓症のリスク増大に警鐘 国内外の学会が警鐘 抗凝固薬で予防を

2020/08/24

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症例における危険な合併症として「血液の凝固異常」や「血栓症」が注目されている。国際血栓止血学会(ISTH)がCOVID-19の凝固異常に関する暫定ガイダンスを公表した。国内でも同学会DIC標準化委員会の委員長である順天堂大学順天堂医院救急科教授の射場敏明氏が、日本集中治療医学会のウェブサイトで、COVID-19の重症化には凝固異常や血栓形成が関わっていることが予想されるとして「抗凝固療法による積極的な介入を考慮する必要がある」との提言を行った。これに続き、日本血栓止血学会が「COVID-19によって血栓症発症リスクが増大する」と警鐘文を掲載し、抗凝固療法の重要性を訴えている。

凝固障害は予後不良の合併症

 COVID-19の病態については未解明な点が多いが、合併症として全身性の凝固活性化や血栓症を引き起こす可能性が国内外で指摘されている。

 こうした背景を踏まえISTHが、COVID-19の凝固異常に関する暫定ガイダンスを公表。「最も深刻なCOVID-19患者の大多数は初めに単一の臓器不全(呼吸不全)を示し、全身性疾患および多臓器不全に進行する例がある」と指摘。

さらに、それらの患者の最も重要な予後不良の特徴の1つが凝固障害だとし、敗血症を発症した患者における凝固障害は転帰不良の重要な因子であるとしている。

 今回の提言で射場氏は、「COVID-19では血液凝固異常や血栓症の合併頻度が高いことが認知され、そのリスクは重症度に従って増加することが知られており、国際的なガイダンスにおいても積極的な抗凝固療法の実施が推奨されている」と指摘。その臨床的な有用性は少数例における検討にとどまっていたが、今般、米国で大規模コホートの研究結果が報告され、抗凝固療法による介入の有用性が示されたと強調している。

 同研究はCOVID-19患者2,773例を対象とし、なんらかの抗凝固療法を実施した実施群と非実施群で院内死亡率と生存期間の中央値を比較したもの。解析の結果、実施群では死亡率が22.5%、生存日数が21日だったのに対し、非実施群ではそれぞれ22.8%、14日だったという。

 重症例では人工換気を必要とする重症例においては抗凝固療法が転帰の改善をもたらすことが示唆されたという。

 この研究結果を踏まえ、提言では「有効性については引き続き無作為化比較試験で確認する必要がある」としつつ、COVID-19の重症化例には血液凝固異常や血栓形成が関わっている可能性があるとして「抗凝固療法による積極的な介入を考慮する必要がある」と訴えている。

日本血栓止血学会が警鐘鳴らす

 また、今回、日本血栓止血学会によって行われた提言「新型コロナウイルス感染による血栓症発症リスク増大の警鐘」では、凝固異常に伴う血栓症発症が COVID-19 の予後増悪因子であるとし、国内でも「COVID-19 を血栓症発症の重要なリスクと捉え対応する必要がある」とした。その上で、軽症患者、中等症患者、重症患者に対して推奨される対応法を示している。

 軽症患者に関しては「日本人の血栓症のリスクは欧米ほど高くない可能性はあるが、現時点ではエビデンスはない」と指摘。

 中等症患者に対しては、「日本国内における血栓症発症の頻度、治療効果のエビデンスは未だ報告されていない」と説明。

 一方、重症患者については、「動静脈血栓症発症の高リスク〜最高リスクである」と指摘。COVID-19 では出血症状は少ないとされること、また予防量の抗凝固療法では血栓症発症を抑えられない症例が多く存在することから、ISTH の提言では、出血リスクを勘案した上で低分子量あるいは未分画ヘパリンの治療量による抗凝固療法を推奨しており、日本国内においてもこれに準じ、「臨床症状、D-ダイマー値、フィブリノゲン値、血小板数を考慮した上で、抗凝固療法を実施することが推奨される」と結論付けた。

 COVID-19患者の退院後の治療にも触れており、「COVID-19では血栓症のリスクは遷延するとされるため、退院時の抗凝固薬服用に関して考慮する必要がある」としている。

記事監修

日本小児科学会認定小児科専門医
すずきこどもクリニック
鈴木幹啓(すずきみきひろ)