COVID-19の流行は顔を触る動作を減らした

2020/08/21

各国のビデオ映像を用いてマスク着用率と顔に触れる動作を流行前と比較

 中国中山大学附属第三病院のYong-Jian Chen氏らは、中国、日本、韓国、西欧、米国で、パンデミック前とパンデミック期間中のビデオ映像を比較する横断研究を行い、米国以外の国ではパンデミック期間中にマスクの着用率が増加しており、顔を触る動作は減少していたと報告した。

 WHOのCOVID-19予防ガイドラインは、眼、鼻、口を触らないようにし、フィジカルディスタンシングを実行し、頻繁に手を洗うことを推奨している。また、飛沫感染と接触感染を防ぐために、マスクの着用も推奨されている。しかし、健康な一般市民のマスク着用がCOVID-19予防に有効であることを示したエビデンスは十分にはない。

 そこで著者らは、一般の人々に対するマスク着用の指示が、マスクの着用率とCOVID-19感染関連の行動に及ぼした影響を検討することにした。著者らは、マスクの種類とは関わりなく、公共の場所でマスクを着用すれば、顔を触る頻度が低下するのではないかと考えた。

 中国、日本、韓国、西欧(イングランド、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア)、米国の公共交通機関の駅、往来、公園で録画されたビデオを用いて、マスクの着用と顔を触る行為について検討した。対象とした動画は、その場所への旅行を促す目的や、地域のライフスタイルを紹介する目的で、個人またはマスメディアによって作製され、Youtube、Tencent、iQLYLにアップされていたものの中から選んだ。個人の顔が明瞭に映されており、手で顔に触れる動作、携帯電話その他の持ち物の使用や、食べている様子が識別できる画像を選んだ。

 COVID-19パンデミック以前の状態を示す動画は、2018年1月から2019年10月までに録画されたビデオの中から選んだ。パンデミック中の動画は、中国、日本、韓国では2020年2月から3月、欧州と米国では3月に録画されていたビデオから選出した。写っている個人の観察時間は1分以内とし、俳優が演じている動画は除外した。

 マスクの種類は、N95のようなレスピレーター、サージカルマスク、布マスクに分類した。鼻と口がカバーされている状態を適切なマスク着用とみなし、どちらかが露出している場合は不適切な着用とした。顔に触れる動作は、手で触れた場合、携帯電話その他のアイテムを使用した場合、何かを食べた場合と規定した。

 主要評価項目は、マスクを着用している人の割合と、顔(額、眼、鼻、頬、口)に手または物で触れる動作の発生率とした。

 パンデミック前に比べ、パンデミック中のマスクの着用率は、米国を除く全ての地域で上昇していた。

 マスクの種類は、中国ではサージカルマスクが全体の89.1%を占めていたが、その他の国では布マスクが多く、日本では95.1%、韓国では84.8%、西欧では85.7%が布マスクを使用していた。また、米国では全員が布マスク使用者だった。

 顔を触る動作の発生率は、日本と米国を除く国で、パンデミック前に比べ、パンデミック中に減少していた。

 パンデミック前とパンデミック中の、手または物で触れる顔の部分を比較したところ、変化が見られた。中国では、パンデミック前は鼻を触る件数が最も高かったが、パンデミック中には頬を触る件数が最も高くなっていた。日本では、パンデミック前から額と頬に触れる件数が最も多く、パンデミック中もほぼ変化しなかった。韓国では、パンデミック前は口に触れる件数が最も多く、パンデミック中は額に触れる件数が最も高くなっていた。欧州では、パンデミック前は口に触れる(飲食も含む)件数が多かったが、パンデミック中にはそれが大きく減少していた。しかし米国では、いずれの行動にも有意な変化は見られなかった。

 これらの結果から著者らは、マスク着用を義務付ける政策は、実際にCOVID-19流行中のマスク着用率を高め、顔を触る動作も減らしたことが示唆され、公的な場所での一般市民の接触感染予防に役立った可能性があると結論している。

記事監修

日本小児科学会認定小児科専門医
すずきこどもクリニック
鈴木幹啓(すずきみきひろ)