川崎病の合併症、冠動脈障害について

2020/08/26

冠動脈障害の話に入る前に、心臓と冠動脈について説明しましょう。

心臓の役目と冠動脈のはたらき
心臓は体の中のポンプです。血液(赤血球)は酸素を運ぶ役目をしています。体から戻ってきた酸素の少ない血液(静脈血)を肺に送り出し、肺で酸素が多くなった血液(動脈血)を全身に送り出します。これによって血圧を保ち、血液を全身の臓器に運び、酸素を与え、細胞は生きていくことができるのです。

心室は血液を入れる容器で、心筋細胞が心室の壁をつくっています。この心室壁が収縮して血液を全身に送り出しますが、心室自体の働きを維持するために心室壁に血液を送っている血管が冠動脈です。

冠動脈は、心臓から出る大動脈の付け根の近くから右冠動脈と左冠動脈が出ています。左冠動脈はすぐに枝分かれして前(左前下行枝(ひだりぜんかこうし))と、後ろ(左回旋枝(ひだりかいせんし))に分かれます。この3本が円錐の形をした心臓の表面に枝を張りめぐらせ、つまり心臓に冠をかぶせたような形になって心筋を養っているのです。

血管は血液を運ぶ管です。この管の壁をつくっているのが血管壁で、冠動脈の血管壁は内膜、中膜、外膜の3層からできています。
内膜は一つの層になった血管内皮細胞が並んでいて、必要な成分を血液から取り込む重要な役目のほか、細菌など外からの侵入に対し臓器を保護する役割を担っています。血栓(血の塊)ができるのを防ぐ働きもあります。血管壁が障害を受けて構造が変化し、内皮細胞が障害を受けると、血栓を防ぐ機能が果たせなくなります。

冠動脈が突然、完全につまると、心筋細胞は酸素が欠乏し死んでしまいます。この状態を心筋梗塞といいます。つまった血管から血液の供給を受けていた心室壁が広範囲にわたり障害を受けると、心臓の動きが悪くなり、血液を全身に送れなくなります。
そして血圧が低下し、ショック状態になり、突然死することがあります。
また、この時、不整脈(心臓の拍動リズムが不規則になること)が出て、ポンプの働きが不十分になることもあります。

運動中に全身にたくさんの血液が必要な時は、心拍数が増加し、冠動脈はより多くの血液を心筋に運ばなければなりません。
この時、血管壁が反応して血管は拡張します。冠動脈がきわめて細くなっていた場合(狭窄といいます)心筋に血液を十分に送れなくなり、血液が欠乏した心筋虚血と呼ばれる状態になって、働きが低下してしまいます。

冠動脈障害・・・冠動脈が変化していく・・・
簡単にまとめてみますと、冠動脈障害は、川崎病の急性期に冠動脈に瘤ができ、その後、血栓ができてつまったり、血管壁が厚くなったりして血管が狭くなり、心筋に十分な血液がゆきわたらなくなって、おこります。この道筋を経過を追って説明したいと思います。

◇急性期の変化-冠動脈瘤
急性期の症状とともに冠動脈に血管炎がおこってきます。その後、1~2週間して
(1)血管炎のみで炎症がおさまる
(2)血管の軽度の拡張(瘤なし。通常3ミリ以下)
(3)瘤の出現
の3つの場合に分かれます。

(3)の場合、瘤は冠動脈の起始部近く、とくに左冠動脈の左前下行枝と左回旋枝の分かれ目のところができやすい場所です。

◇急性期が過ぎたあとの変化(1)
冠動脈瘤の中に血栓ができる
乳幼児の冠動脈の太さは、ふつうは2ミリ以下ですが、10ミリ以上になる場合もあります。こうした状態になると、冠動脈の内皮細胞は障害を受け、血栓ができやすくなってしまいます。

急性期や回復期には、血液の凝固をうながす凝固因子の活動が高まるほか、血栓ができるのに大きな役割を果たす血小板も増えてきます。こうした異常な状態がそろうため、大きな瘤の中に血栓ができ、血管が閉塞してしまうのです。冠動脈がつまったあと、細い蛇行した新生血管がみられることがあります。

瘤の中に血栓ができて生じる心筋梗塞は、川崎病の発症から1年半以内におこることが多いです。閉塞する危険性がある急性期の瘤の大きさは7ミリ以上です。

心筋梗塞
◇急性期が過ぎたあとの変化(2)
こぶが小さくなり、狭いところができる
急性期にできた冠動脈瘤は、その後、どうなっていくのでしょうか。「一過性拡大」といって数か月で瘤がみられなくなってしまう場合があります。そうでない時は
(1)数か月から数年たって瘤がみえなくなり、冠動脈造影では正常にみえる、つまり瘤が「退縮」する場合
(2)瘤が残る場合
があります。

一過性拡大は、血管壁の障害は軽く、炎症がおさまるとともに、冠動脈の太さが元に戻ります。

しかし、血管壁が強く破壊されると血管壁の細胞が増殖し、血管壁が厚くなります。この状態を肥厚といいます。
急性期に瘤の大きさが4ミリを超えた場合、肥厚してくる可能性があります。瘤が大きいほど、血管壁の肥厚は強くなります。軽度の肥厚なら、血管内腔(血液が通る部分)に影響はありませんが、強い肥厚がすすむと血管内腔の面積が狭くなってしまいます。これを冠動脈狭窄といいます。

狭窄は、瘤が小さくなる時、その入り口、出口にできる場合と、いったん瘤がなくなり、冠動脈の内腔が正常化したようになった後、数年を経過して瘤が元あったところにできる場合があります。大きな瘤では、血管壁は厚くなって一時的に血管内腔は元に戻り、冠動脈造影では正常になったように見えますが、さらに血管壁の肥厚がすすむと、狭窄になります。狭窄が出てくる時期は、発症後1、2年と、10年を経過してから出てくる場合が多いです。冠動脈障害は、年数がたつにつれ変化していく場合があるので、定期的な検査が必要です。

◇瘤のスクリーニング
冠動脈瘤があるかどうかを調べる検査は、急性期に断層エコー図(心エコー法)によって行います。心エコー法は冠動脈の起始部の瘤はとらえやすいのですが、末梢(先の方)では困難です。こどもに負担をかけずに簡単に検査できますが、冠動脈全体の形態を確かめることはできません。

◇冠動脈障害の検査
川崎病発症から2、3か月しても冠動脈径が4~6ミリを超えるときは、心臓カテーテル検査による冠動脈造影を受けることをすすめます。この検査で急性期の冠動脈の形態と冠動脈径がわかっていれば、予後がどうなるかの推測に役立ち、経過の観察、治療に有益だからです。

冠動脈瘤は急性期を過ぎてから「退縮」という変化があるため、1年を過ぎてから造影しても、障害を受けた部位、程度を正確に知ることはできないのです。

冠動脈狭窄とわかったら、ただちに何らかの治療を行わなければならないかというと、そうではありません。50%狭窄(正常と思われる血管の半分くらいの狭さ)では、ふつう心筋が血液不足になる心筋虚血はみられません。しかし90%以上の狭窄になると、運動や薬剤によって負担をかける検査で心筋虚血がみられるようになります。

川崎病による冠動脈狭窄がかなり狭くなっていても、心筋虚血による胸痛などの症状が出るのはまれです。

◇狭くなった冠動脈の治療は
心筋虚血が明らかになると、十分な血液を送れるようにするための血行再建術が必要です。血行再建術には
(1)インターベンション(カテーテルによる治療)
(2)冠動脈バイパス手術
どちらも利点と欠点があり、患者さんの狭窄の状態によって選びます。

(1)にはバルーン(風船)を使う方法やロータブレーターがあります。

バルーンを使う方法は、カテーテルの先についている小さな風船を冠動脈の中でふくらませ、厚くなった血管壁を外側へ押しやるようにして血管の内腔を広げるものです。これは早期にできた狭窄の治療に有効です。川崎病発症後1、2年では血管壁が柔らかいため効果があります。

ロータブレーターは、カテーテルの先端についているドリルを高速回転させ血管壁を削る方法です。血管壁が厚く硬い場合に有効で、発症から10数年経過し、石灰化がみられる狭窄の治療に使います。

カテーテルを使う方法では、風船やドリルで機械的に内腔を広げても、再び狭窄が進行することがあります。

(2)の冠動脈バイパス手術は、交通渋滞を緩和するためバイパス道路をつくることと似ています。狭窄したり、つまったりした場所より先の部分に、他の血管(グラフト)をつなぎ、血液不足を補います。血液が不足している心筋の部分に、血液を送る血管がもう一本ふえるわけですから、心筋虚血を改善できるのです。

この手術は、川崎病による冠動脈狭窄性病変に対して、1975年にわが国で始められましたが、当初はグラフトに静脈を使用していたため、術後早期から数年でグラフトがつまってしまうことがありました。
1984年に北村惣一郎(元・国立循環器病センター総長)らによって内胸動脈という血管がグラフトとして使われるようになり、グラフトの開存(つないだ血管が開通していること)成績が上昇しました。この方法は血管の細い幼児でも可能で、体の成長とともにグラフトも成長し、術後15年を経過しても約80~90%の患者さんでバイパスの機能を果たしています。

冠動脈バイパス手術によって心筋虚血が改善すると運動制限はなくなり、自由に運動できるようになりますから大きな恵みになっています。

一番の気がかりは心筋梗塞
川崎病にかかった後どうなるか、その予後に影響するのは心筋梗塞の発症です。冠動脈障害だけであれば、心臓のポンプ機能に影響はありません。巨大瘤では発症後10年で約60%、15年で約70%の患者さんに冠動脈に狭窄や閉塞が見つかっています。血管が閉塞した3人のうち2人は無症状で冠動脈造影検査で閉塞がわかりました。これらを無症候性心筋梗塞といいます。3人に1人に心筋梗塞の症状がみられ、このうち約20%が亡くなっています。

一口に心筋梗塞といっても、予後は梗塞の範囲、つまりどれだけの範囲が障害を受けたかによって異なります。広い範囲の心筋梗塞では心室機能が低下します。狭い範囲で、軽度の心機能の低下であれば日常生活に影響はありません。冠動脈の1本がつまっても、他の血管から新しい血管が伸びてきて、血液を補ってくれることもあります。しかし、数回、心筋梗塞をおこし、ポンプ機能が低下して心不全になり、ごくまれですが心臓移植が必要となる場合もあります。

心筋梗塞の症状と予防
症状は激烈な冷や汗をともなう持続的な胸痛です。背中、肩、腹部の痛みを訴えることもあります。乳幼児では顔面蒼白、おう吐、不機嫌には注意が必要です。急性心筋梗塞をおこした場合、すぐに治療を受けなければなりません。血管をつまらせている血栓をとかす薬を静脈内に投与するか、または冠動脈内に投与する「冠動脈内血栓溶解療法」によって、血栓をとかし血管を再開通させます。

心筋梗塞は前ぶれなく、突然おこります。発症した時の対処、かかりつけの病院への連絡など、緊急の場合にすぐ対応できる準備をしておかなければなりません。

心筋梗塞の予防、血栓ができるのを予防するため、血小板の働きをおさえる「アスピリン」、「チクロビジン」などの抗血小板薬を継続して服用することが必要です。アスピリンはまれに胃かいようなどの副作用がみられ、貧血になることがあります。血栓ができやすい巨大瘤の場合は、血液中の凝固因子の働きを抑え、血を固まりにくくする「ワーファリン」という抗凝固薬を併用します。これも副作用として出血しやすくなるため、定期的に血液検査を受け、薬の効果を調べてもらうことが大切です。

日常生活での注意点
お子さんが川崎病と診断されたご両親は、きっと不安を抱き、わが子の将来を心配されるはずです。しかし、ここで説明したように診断、治療とも年々進歩しています。

症状にしても後遺症にしても個人差があります。担当医から病状をよくお聞きになり、適切な対処により病気を克服していきましょう。

冠動脈障害がない場合は過度の心配は不要です。ただし、冠動脈障害がある時は、元気にしているからずっと大丈夫とはいえない場合があります。心筋梗塞をおこすまで、無症状であることがほとんどだからです。ですから経過の観察、定期的な検査、抗血小板薬の内服がきわめて大切です。心筋虚血がない場合は運動を制限する必要はありません。

川崎病はまだ新しい病気で、この病気にかかった患者さんたちは60歳代に達していません。血管は年齢とともに老化していきます。川崎病の冠動脈障害に、年をとるにつれて進む動脈硬化が加わった場合、どのような経過になるかを注意する必要があります。

日本人の食生活、生活習慣は変化し、小児期からの生活習慣病予防が大きな意味をもつようになってきました。偏りのないバランスのとれた食事と適度な運動を心がけ、健康を保つ努力をしましょう。

記事監修

日本小児科学会認定小児科専門医
すずきこどもクリニック
鈴木幹啓(すずきみきひろ)