多くのLGBTQの若者はメンタルヘルスの問題に苦しんでいる
2020/08/26
米国の非営利団体Trevor Projectは6月15日に、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアまたはクエスチョニングの頭文字をとったセクシュアルマイノリティの総称)の若者の40%、トランスジェンダーやノンバイナリー(自分の性認識を男または女の枠組みに当てはめない考え方)の若者の半数以上が、過去1年の間に自殺念慮を抱いていたとする調査結果を発表した。
これは、Trevor Projectが米国のLGBTQの若者(13〜24歳)4万人以上を対象に実施した、LGBTQの若者のメンタルヘルスに関する2020年全国調査の結果である。この調査から明らかになった主な知見は、以下の通りである。なお、本調査では、さまざまな性自認の総称として「トランスジェンダーやノンバイナリー」という言葉を用いている。
・LGBTQの若者の68%が、過去2週間の間に全般性不安障害の症状を経験した。その割合は、トランスジェンダーやノンバイナリーの若者では4人に3人以上に上る。
・LGBTQの若者の55%が、過去2週間の間に大うつ病性障害の症状を経験した。その割合は、トランスジェンダーやノンバイナリーの若者では3人に2人以上に上る。
・LGBTQの若者の約15%が、過去1年の間に自殺未遂を起こした。その割合は、トランスジェンダーやノンバイナリーの若者では5人に1人以上に上る。
・LGBTQの若者の48%が、過去1年の間に自傷行為を行った。その割合は、トランスジェンダーやノンバイナリーの若者では60%以上に上る。
・LGBTQの若者の46%が、過去1年の間にメンタルヘルスの専門家によるケアを受けたいと考えていたが、実際に受けることはできなかった。その理由として40%以上が、親の許可を得ることに関わる懸念を挙げた。
・LGBTQの若者の10%は転向療法を受けており、そのうちの78%は、この療法を18歳になる前から受けている。
・LGBTQの若者の自殺未遂率は、転向療法を受けている若者で28%であったのに対し、受けていない若者では12%であった。
・LGBTQの若者の29%は、家から追い出されたり家出したりすることでホームレスを経験したことがある。
・LGBTQの若者の3人に1人は、性的指向や性自認を理由に身体的に脅かされたり、実際に危害を加えられたりしたことがある。
・自分がトランスジェンダーやノンバイナリーであることを公言し、それを周囲の全てまたはほとんどの人から尊重されている人では、自殺を試みた人の割合が、周囲の人から自分の性自認を尊重されていない人の半分以下である。
・トランスジェンダーやノンバイナリーの若者の61%は、自分の性自認と一致するトイレの使用を妨げられる、または嫌がられた経験がある。
・LGBTQの若者の86%は、最近の政策が自分たちのウェルビーイングに負の影響を与えていると考えている。
この調査は、LGBTQの若者のメンタルヘルスに関する調査としては過去最大規模のものであり、LGBTQの若者の人生と自殺のリスク因子に関して、重要な洞察を得ることができる。
そして、どのような状況下でも有効に働く自殺防止の万能なアプローチなど存在しないことは分かっている。状況に左右されない頑健な研究と体系的なデータ収集、包括的なメンタルヘルスサポートの必要性が、かつてないほど高まっている。
一方、今回の調査結果は、LGBTQの若者のジェンダーを肯定するサポート体制を優先的に構築する必要性を明らかにするものであり、それは、社会の行く末にもベネフィットをもたらすだろう。
記事監修
- 日本小児科学会認定小児科専門医
- すずきこどもクリニック
鈴木幹啓(すずきみきひろ)
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