オンライン診療、世界で拡大 日米英中は保険適用

2020/08/26

パソコンやスマートフォンなどで医師の診断を受けるオンライン診療が世界で急増している。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに病院へ通うのが難しくなった患者が増え、米国などが保険を本格適用したためだ。米国は2020年の診療回数が感染拡大前の予想の30倍近くに増える見通し。日本もオンライン診療を活用して医療を効率化し、年40兆円を超える医療費の削減につなげる必要がある。

米国の2020年のオンライン診療は10億回となりそう。新型コロナ感染拡大前の予想(約3600万回)の約28倍となる。米国の外来診療におけるオンライン比率は18年で2.4%だった。これが20年は大幅に増える見通し。

新型コロナに集中するため、ニューヨーク市など多くの病院は緊急以外の外来患者の受け入れを中止した。緊急措置で米政府は3月、高齢者向けの公的医療保険「メディケア」でオンライン診療の保険適用範囲を大きく拡大。過疎地のみといった従来の条件を撤廃し、全米で受けられるようにした。州政府も同時期に民間保険会社に保険でまかなうよう指示、コロナをきっかけに保険適用の範囲が一気に広がった。

英国は国民医療制度が英企業、バビロン・ヘルスの開発したオンライン診断アプリを保険適用している。同アプリには、人工知能(AI)による症状の分析とオンライン診療の2つの機能がある。軽度の症状の診察はAIが医師を代替し、本格的な診断や薬の処方はオンライン診療で対応する。

国民医療制度加入者は患者負担が原則無料だ。英で家庭医と呼ばれるかかり付け医は、患者の対応に忙殺されがち。アプリのAI機能とオンライン診療によって家庭医の負担を軽減する。

中国も2019年夏にオンライン診療を公的医療保険の対象とする方針を打ち出した。医師不足の中国はもともとオンライン診療のニーズが強かった。世界保健機関(WHO)によると中国の人口1万人あたりの医師数は16年時点で約19人。米国(26人)や日本(24人)より少ない。

調査会社の前瞻産業研究院によると、春節(旧正月)期間におけるオンライン診療アプリの利用者数は、前年の同じ時期より約3割増えた。代表的なアプリ「平安好医生」の登録者数は3億人を超える。診療回数は1日約73万回に達する。顔に湿疹ができオンライン診療を受けた広東省広州市の女性(27)は「命に関わらない病気ならオンライン診療がよい」と話す。患部の写真を医師に送って症状を伝え、代金は1元(約15円)。病院だと2~3時間は必要となるはずの所要時間は約20分だった。

新型コロナに対応し、初診でのオンライン診療を4月から解禁した日本でも導入医療機関が増えている。ただ今回の規制緩和は感染が収まるまでの時限措置。一部の医師は「新型コロナ収束後もオンライン診療を活用できるよう、国は制度整備を進めてほしい」と訴える。

オンライン診療などのIT化は遅れていた医療現場の生産性を高め、コストを削減。患者の利便性の向上や長期的な医療費の抑制にもつながる。コロナ危機を契機に始まったオンライン診療を医療改革にどうつなげていくかが日本にも問われている。

記事監修

日本小児科学会認定小児科専門医
すずきこどもクリニック
鈴木幹啓(すずきみきひろ)